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原子力施設のさらなる安全性向上を目的に 機器の状態遷移及び経時的変化の影響を考慮した 事故発生率の定量評価手法を開発


 東京都市大学工学部(東京都世田谷区)原子力安全工学科 牟田 仁ら研究チームは、原子力施設の安全関連システムにおける、時間経過に伴う様々な動的変化を考慮した事故発生率の定量評価手法を開発しました。なお、本成果は日本原子力学会和文論文誌(2016年6月1日発行)に掲載されました。

本研究のポイント

従来の確率論的リスク評価(PRA1))手法では厳密なモデル化が困難であった動的な信頼性解析手法の開発に成功しました

■本評価手法では、原子力施設の安全関連システムにおける時間経過に伴う機器故障の発生や復旧作業の完了といった様々な動的変化を、確率過程を用いてモデル化しました

■本評価手法は、原子力施設の安全性向上に対して大きな課題となる余震を含む地震動リスクや、津波のような経時的な影響を考慮する必要のある地震随伴事象によるリスクに対しても、適用可能です

概要

 原子力発電所の事故は、2011年の東京電力福島第一原子力発電所の例からもわかるように、自然災害等の起因事象に端を発し、電源の喪失や機器の故障、判断や操作ミスといった人的過誤、更には安全機器の復旧作業失敗といった複数の事象が同時に起こることで発生します(図1参照)。

図1 確率論的リスク評価(PRA)の論理モデルの概要

 従来の確率論的リスク評価(以下、PRA)では、機器故障や人的過誤が原因となる事象を主に評価対象とし、外部(自然災害等)からの影響を詳細に評価してこなかったため、安全機能は時間変化のない定常状態であると考え、機能喪失確率を算出する場合には平均的な喪失確率を用いて定量評価してきました。

 しかし、福島第一原子力発電所の事故以降、地震や津波といった外的事象を原因とする事故の評価では、時間の経過とともにプラント内の状況が変化していくことから、このような前提条件では不十分であると考えられるようになりました。

 そこで、本研究では原子力施設のさらなる安全性向上を目的に、原子力施設の安全関連システムにおける時間経過に伴う機器故障の発生や復旧作業の進捗といった様々な動的変化を、確率過程を用いてモデル化することにより、原子炉停止、炉心冷却あるいは損傷炉心冷却、崩壊熱除去、といった安全機能が喪失する確率を求め、事故の発生確率を定量的に評価する手法を開発しました。

 この手法では、炉心損傷頻度2) の算出における経時的な故障確率の変化を、各事象の発生確率を時間の関数として扱うことで考慮します。機器の状態は、例えば、正常(Normal: N)、故障(Fault: F)、修復(Maintenance: M)、手動停止(Shutdown: S)の4つとし、各時刻における各状態にある確率を、連立微分方程式を解くことで求めます(図2参照)。さらに、この解に基づき、機能喪失状態にある機器の組合せによって炉心損傷が発生する確率を経時的に求めます(図3参照)。

図2 機器の状態変化モデル概要(4状態を想定)

図3 本手法による炉心損傷リスクの評価例

研究の背景

 これまでの原子力発電所の安全審査では、ある設計の基準が設定され、これに沿った設計を行うことで安全性を確保してきました。一方、この基準を超えるシビアアクシデントが起こる可能性もあり、原子力発電所の安全性を向上させるためには、適切なリスクの評価とこれに基づく対応が必須とされています。

 PRAは、設計上の想定を超えるシビアアクシデントの発生可能性を考慮して、安全を一層確実にする設計改善やアクシデントマネジメント策の検討に有力な手段として用いられてきました。2011年3月の福島第一原子力発電所で発生したシビアアクシデントを受け、リスクマネジメント強化への一層の努力が要求されることとなり、このための技術的な基盤としてPRAの継続的な改善が求められる状況にあります。

 現状のPRA手法が抱えている課題の一つとして、経年劣化による影響を含む動的な信頼性解析手法の開発が挙げられます。原子力施設、安全関連システム或いは構成機器等における時間経過に伴う故障や、メンテナンス等の様々な状態間の複雑な遷移のようなシステムの動的な変化は、従来のPRA手法では、厳密にモデル化することは難しく、動的変化に伴うリスクの変動を定量的に示すことも困難です。また原子炉の安全関連システムにおける待機状態の機器故障率変化(経年劣化或いは外部要因等による継続的・断続的な影響による動的な変化)がもたらすリスクの変動についても同様です。

 そこで本チームは、既往の研究で状態遷移モデル3)を用いた信頼性評価手法を提案し、PRAへ開発した手法の適用性を示しました。これらの研究では、経時的な状態遷移が十分な時間が経過した後に定常状態となった場合を想定しましたが、安全機能を構成するシステム・機器の正常、故障、補修といった状態変化に加えて時間の経過に伴う機器故障率の動的変化によるリスク変動を厳密に評価する手法の開発という課題に対応するためには、機器の状態遷移及び経時的な変化を取り扱うことのできる状態遷移モデルに基づくPRA手法を開発する必要がありました。

期待される成果と応用

 従来PRAにおける主な機器故障のモデルを対象に、機器の状態遷移に加えて、経時的な変化を考慮した故障確率の算出方法の提示、当該手法と炉心損傷頻度を算出するための論理モデルとの関係の明示、更に開発した手法を用いた試算を通して、本研究による評価手法の有効性及びPRA手法への適用性を示すことが出来ました。

 本研究の評価手法は、今後の原子力施設の安全性向上に対して大きな課題と考えられる外部  ハザード、具体的には、余震を含む地震によるリスク、地震の随伴事象としての津波によるリスク等、経時的な影響を考慮しなくてはならない事象に対しても拡張性があると考えており、これを適用することにより、より厳密なリスクの把握や安全対策設備に対する様々な変動要因を考慮した有効性の確認等のリスク上の判断が可能となることが期待されます。

用語解説

1)PRA:確率論的リスク評価(Probabilistic Risk Assessment)の略語であり、事故が起こるシナリオを複数の事象の組み合わせで表し、個々の事象の発生確率の積で事故の発生確率を評価する手法

2)炉心損傷頻度:原子力発電所のリスクは、原子炉が内包する放射性物質に起因している。炉心損傷頻度は、原子炉内の燃料が損傷し、放射性物質が放出される可能性を示す指標であり、原子炉1機が1年間運転した場合に炉心が損傷する確率を表す。

3)状態遷移モデル:ある機器が、正常、故障、修復といった様々な状態の間をランダムに移行することを、確率過程で表したもの。確率過程とは、ある状態からある別の状態への変化を数式で表したもの。


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~報道関係者からのお問い合わせ先~

東京都市大学 工学部原子力安全工学科 講師 牟田 仁 (むた ひとし)

学校法人五島育英会(東京都市大学グループ)法人本部広報室 

TEL:03-3464-6916 

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